大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和58年(あ)1325号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人浜四津敏子の上告趣意は、憲法三五条一項違反をいう点を含め、実質は事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

なお、原判決及びその是認する第一審判決の認定によれば、本件において、麻薬取締官は、東京都新宿区《番地略》所在のグレイハイツA号室に住むWなる者が大麻を所持しているとの情報を得、内偵したところ、郵便受の表示等から右グレイハイツA号室に被告人とWが同居している状況を認めたため、Wを大麻取締法違反事件の被疑者、捜索すべき場所を右グレイハイツA号被疑者居室、差し押えるべき物を大麻等とする捜索差押許可状の発付を裁判官から得たうえ、右グレイハイツA号室を訪れ、応対に出た被告人に対し、右令状を示してWに対する大麻取締法違反の捜索令状であることを告げ、「Wはいるか、どこへ行ったか」と尋ね、被告人が「いない。一週間前に出て行った」と答えたのに対し、「Wの荷物はあるか」と更に尋ねたところ、被告人が「二、三ある」旨答えたので、「捜索する。立会人になってくれ」と告げ(なお、その際通訳した者が、「畳をはがしても捜索する」との文言を独断で付加している。)、次いで被告人に対し大麻を持っているなら出すよう言って、その所持していた大麻(本件起訴の対象となっているもの)の提出を受けたというのである。以上の事実関係によれば、たとえ、原判決が認定するように、右捜索時においてはWは前記グレイハイツA号室から転居しておったとしても、麻薬取締官が、郵便受の名前の表示、同室の構造や室内の状況、及び二、三の荷物がある旨の被告人の返答から、前記令状による右グレイハイツA号室の捜索が許容されるものとして、その捜索を実施したのは適法であるといえるから、麻薬取締官が、右捜索に当たり立会いを求めた被告人にその所持する大麻の任意提出をさせたのは、何ら違法性を帯びるものではないと解される。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 島谷六郎 裁判官 大橋 進 裁判官 牧 圭次 裁判官 藤島 昭 裁判官 香川保一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例